日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。 忍者ブログ

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雪の日


 急に外は静かになった。結構強い降りだった雨は止んだのだろうかと雨戸を開けると、ちらちらと動く小さな白いものが眼の前に現れた。
 予報通り雪になった。拾壱月に降る雪は、赤と黄に染まった町をあっと言う間に変えてしまう。

 なんで雪が降ると胸の内が静かになるのだろう。そうしてひとりで笑うことができるのは何故だろう。それから、おかえりと耳元でささやく声は何だろう・・・。其れが不思議で仕方なく、いつものように外を歩いたけれど、今回も答はみつからなかった。けれど其れでいいのだろう。
 雪の日は、(たぶん)乗り捨てられた自転車やブルーズの記憶や死んでしまった猫が傍まで寄ってくる。歩くときはみな一緒だ。雪の日に忘れ去られたものはなく、みな世界に抱かれている。嗚咽を漏らすほど苦しかった過去も、一緒になりおとなしく歩いている。だからだろうか。死ぬときは晴れた日より、こんな雪の日がいいと想ってしまう。
 青空を見ると今でも胸が逸る。けれど、壊れた玩具には其れが辛く、躯を引き摺りながらでも歩ける雪の日に安堵する。其の方が青空の突き刺さる痛みより、痛みが強いのに、どうしてだかやさしいと感じてしまう。雪の日の痛みは焦げた匂いのする胸の焼けた痛みだ。ブルーズの歴史について書物を読んだあとで聴き直したブルーズに感じた痛みにも似ている。
 泣きながら笑うことを覚えたときから、あたしは自分自身と随分距離を短くした気がする。

 ふんっ、と冷えた空気を鼻で吸うと、雪の温度が躯の中に入ってきたので家まで持ち帰ることにした。或の木造の古い家なら、家ごと一緒に歩いてくれる気がした。

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