日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。 忍者ブログ

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雨ふり


 雨がふり冷えた日は、直してもまだ丈の長い藍色した麻のワンピースに割烹着を羽織り、膝掛けをすると丁度いい。珈琲は熱く淹れたものを。其処にチョコレートをひと片。それから便箋とペンに毛糸玉と編み棒を卓に置き、頬杖をつき雨の音を聞いているのがいい。
 家人の夏休みは昨日で終わった。右手がうまく使えず食堂で昼食をとれそうもないと言われ、今朝は目覚ましを肆時肆拾分に鳴るようにした。いつもより少しだけ早起きしただけだから朝の様子はそう変わりなかった。けれど、其れは季節が秋だからで、冬になればまた違う。例えば猫にしたって、台所の窓の向こうに姿を見ることはなくなる。
 雨ふりの日も冬も朝はとても静かだ。静かな分、言葉は満ちている。まるで人の声や人の出す音に代わるかのよう、ひとつひとつのものが姿を現す。其れはあたしたちが表現と呼ぶもので、彼らの多くは猫や鳥のように声を発したりしないけれど、あたしたちが言葉と呼ぶものを持ち発してもいる。あたしがどんなに忙しく眼を動かしても聞き取れないほど、またあたしの知るだけの言葉では表せないほど、彼らは多様で繊細な表現をする。みつめているときらきらと星のように光り始めるから、薄暗い雨ふりの日も冬の日も声にならない声でそっとうたってしまう。
 頬がかじかむ季節になる前に、フードを付けたベストを編み直そうか考えている。彼らの言葉が耳の内で少しでも長くとどまるよう。頬杖をついた手を耳にずらすと、しんとした音が大きくなった。

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