日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。 忍者ブログ

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百合の花


 玄関を入るとオレンヂ色が眼を刺した。花瓶にいっぱい活けられた鬼百合は今が盛りだと言わんばかりにまぶしさを放っていた。荷物を下ろし、父に挨拶をし、靴下を脱ぎ裸足で板の間をぺたぺた歩き冷蔵庫に向かうと、中には想ったとおり西瓜が冷えていた。
 伯父の家で貰ったのだろう。百合もそうかもしれない。それとも百合の方は叔父の家だろうか。遠慮無しに西瓜を割り好きなだけ食べ涼んでいると、かあさんが帰ってきた。玄関で滑って転んだ際ベンチの角に頭を切れたと云う耳には大きなかさぶたができていた。脚じゃないから大丈夫と言っていたけれど、縫ったからには相当痛かったろう。今日で治療を終えたから来週から歯を治療して貰うのだとたすき掛けにした鞄をソファに置きながらひと通り話し終えると、かあさんは冷蔵庫に向かい西瓜を取り出した。
 いつのまにか付いていた百合の花粉が染めた指が、夕陽が落ちていくように心許なくふるえていた。明日のことは知らない。汚れずに暮らしていこうとするだけではとても足りないけれど、帰省する都度ぬくいものが胸を縁取り、案外そんなものだけでいいのではないかと想ってみたりもする。
 花粉が落ちるからと父の使っていた植木鋏を用い雄しべをうまく落としたつもりが、気付くと服にあちこちついてしまっていた。着ていたのは白い服だった。笑いながら服を着たまま洗面所で父も使っていた薬用石鹸で洗い流すと、きれいにとれた。おとつい自分がうんと泣いたことを誰も知らない。それでいい。

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