日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。

(6月からお休みしていましたが、再開しました。)
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猫に恵まれ


 猫に恵まれたねと言われ、素直に肯いていた。

 憶えのある最初に一緒に暮らした猫は、天井裏で毎夜走り回る鼠たちを追い払って貰う為、親戚の家から連れられてきた猫だった。既に親猫になっていた彼女はたいそう温和な猫で、其の頃猫を見ただけで半べそをかいていたあたしでも背中を撫でたい衝動に駆られ、しだいになかよくなることができた。なにより賢い猫で鼠取りが上手だった為、母の友人の家に数箇月預けられたこともあり、其のときあたしは随分ぐずった記憶がある。或る日其の猫がいつものように外へ出ていったものの壱週間ばかり帰って来ず心配していると、夕方になり頬を腫らして帰ってきた。そしていつものように一緒に布団に入り眠ったものの、翌朝目覚めると彼女の姿はなく、それきり彼女は帰ってこなかった。
 其の後暫くして新しく猫がやってきた。近所の人が貰って欲しいと置いていった猫は全く躾がされてなく、数々の粗相をしてしまう有様だった。最初の猫が忘れられなかったあたしは彼女に名前も付けず、最初の猫がどんなに利巧で穏やかな性格だったかとつとつと彼女に語ってばかりいた。それでもやってきたのが夏休みだったこともあり、壱番暇な自分が自然と面倒を見る羽目になった。御蔭であたしは壱日中彼女を見張り夏休みを過ごし、夏休みが終わる頃には猫は余りな粗相はすることはなくなった。そうして休み明けの朝になり学校へ行こうとすると、彼女は鳴いて何処までも追ってきた。其れは拾日ばかり続き、やっと追いかけてこなくなったと想っていると、今度は帰宅すると欠かさず庭の向こうから飛んでくるようになった。いったいどうやってあたしが帰宅することを猫は嗅ぎつけるものなのだろう。他人に話すと、其れは犬だよ、と言われるのだけれど、あれは間違いなく猫だった。其れもあまったれで泣き虫で、子を孕むと腹を撫でてくれと御産の手助けをさせるような猫だった。それでも屋根に上り降りられなくなり助けに行ったのはどっちの猫だったかはっきりしているのに、魚の大きな骨を歯に詰まらせよだれをだらだら垂らし鳴いていたのはどっちの猫だったか、梯子を使い曲芸させたのはどっちの猫だったか、はっきりしない。
 どちらの猫にしても壱枚の寫眞も無く、模様さえぼんやりとしか憶えていない。ただ、あれほど我が儘に振舞っていただろう自分に対し、愛してくれたとはっきり想えるから不思議だ。あれから大人になりいろいろな人に逢ったけれど、未だに彼女らと過ごしたことが他と関わることのあたしのいっとう上にある。

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