日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。

(6月からお休みしていましたが、再開しました。)
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朝の光


 肆時半に起き昼間も薄暗い廊下を行くと、此の頃台所が明るくなっている。バタバタと朝を過ごし、伍時半に溜まったボウルやフライパンや食器を片付けようと流しの前に立つと、今日は窓の向こうが朝日に染まっているのに気付いた。其れは、父のいた頃、実家で洗濯機を廻しながら見ていた窓に似てオレンヂ色がとてもきれいだった。あれは冬だったけれど、よく似ていた。
 家人を送り出し、洗い物を拭き卓に並べている間もオレンヂ色の光は去ろうとしないばかりか卓を照らし始めたので、灯りを落とし新聞を拡げた。灯りを落としても活字が拾えるようになった朝なのだと想うと、いっそう或の冬の窓が色濃く脳裏に蘇り父の息遣いさえ聞こえてくるようで、其の侭暫く卓に張り付いていた。
 忘れられないものは歳月と共に鮮やかな色を放ち、ますます忘れられないものになっていく。一方忘れないだろうと想っていた嫌なことは細部が思い出せなくなり、月日と共に黒ずんでいくばかりだ。煤のようにあたしに張り付いているだけのものは記憶とも呼べなくなっているのに、それでも消えることはなく嫌な感情はしっかり残っているから不思議だ。父のことは随分悩みもしたのに、何故か忘れられないものになっていて、冬の光や夏の光と一緒に思い出すことが多い。まぶしい光景ばかり憶えている。
 西瓜買っといたぞ、と光の奥から一瞬父の声が聞えたときには、台所の光は既に卓からずれ始めていた。

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