日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。

(6月からお休みしていましたが、再開しました。)
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曼珠沙華


 電車を壱本遅らせ覘いた公園の曼珠沙華は見頃を迎えていた。彼岸には少しばかり早い開花にがっかりしつつも、火花が散るような花を眼にしてしまえば、胸の内に火花が入り焔をあげていた。
 そのままの胸で帰省するとかあさんの姿は見えず、卓の上に、美容院に行ってくる、と書き置きが残してあった。荷物を放り出し冷蔵庫から水の入った麦茶入れを取り出しコップいっぱいに注ぎ、飲み干してしまうと、父の前に立った。花瓶の中にはめずらしく曼珠沙華が入っているのに驚き、かあさんが帰宅するやいなや尋ねると、角の処に勝手に生えた、と言う。以前からひとりでに種が飛んできては花を咲かせる場所だったけれど、まさか曼珠沙華まで姿を見せるとは想わなかった。
 此の小さく他愛も無い、それでいてなにか頬がゆるんでしまう出来事を、きっとあたしは幾度となく思い出し、其の都度かみしめることをし、これから過ごしていくに違いない。其れは誰も知らない誰も憶えてなどいない父のした彼是に似て、例え形として残っていて暮らしに役立っていたとして、誰が最初そうしたからなどと誰も考えることない当たり前のことはあたしが死ねば尚更ただ此処にあると云う其れだけのことになる。
 曼珠沙華はあたしのちょっとした秘密。・・・それでいい。

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