日々の雑感、他愛ないこと。印のように記してみたり。日々の呼吸を此処に。 忍者ブログ

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 建ち並ぶ高層ビルに吸い寄せられるかのように風が集まった町は、絶えず空気が流動している。町に流れる小さな川に沿い歩くと、此処でも他の町と同じように木造の古い建物が目立つ。借りた部屋もそうだった。ただ父が設計した家と違い玄関から裏木戸まで風が抜ける通り道はなく、暖かい時期になれば早々に熱が篭り暑い家になるのではと心配していたが、風がいいように其れを裏切ってくれた。
 少しでも空気が動けば此の町では結構な風ができあがる。軒下に干した洗濯物がぶつかりあい音を立てる都度、唸り声をあげる風の強さにぎくりとする。冬とても寒かった家の中は温かい時期が廻って来ても、決して暑くはならない。少し蒸したかと想った日でも、ちょっと風が入り込むと、たちまち熱を持ち去っていってくれる。外に出て今日はこれほど暑かったのかと驚いたことも壱度や弐度ではない。それでも体温は此の伍月に間違えることなく上がったが、今年は苦しさは感じなかった。
 午前捌時、曇り硝子を抜けた陽射しにカーテンがうすいきいろに変わる。傍らに置いた洗濯ばさみを入れた籠までは陽射しは届かない。薄暗い部屋が淡く朝に染まるだけだ。台所から持ってきた珈琲カップを手に硝子戸の前に置いた机に座り、ぼくは其れをひんやりした空気に身を置き眺めている。鳥の声や塵収集車の音がたまに耳に入ってくるくらいで、あとは何も起こらない。目線を少しずらすと黙したおはようの言葉が正座していた。

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